最近、タイポグラフィ関連のグラフィックアートで、コラージュとか立体化とか自然現象とかイラストレーションとか、様々な方法で表現されたアルファベットの作品をよく見かける。プレゼンテーションは基本的にはどれもAからZまで一枚絵として独立して見せていくものが多い。どれもおもしろいのだけれど、文字それ自体で画面が完成してしまうので、他の要素と組み合わせて使う用途、つまりレイアウトされることはあまり想定されていないように見える。

 

このあいだ、国立近代美術館で「パウル・クレー展 おわらないアトリエ」という展覧会を観た。展覧会の趣旨とはずれるが、クレーの、絵画空間のなかに矢印とか文字などの記号を射し込む感覚のするどさには、改めて感じ入るものがあった。クレーの絵には、上述したタイポグラフィック・アートに通ずる、ほとんど象形文字のような、絵と記号が溶け合った作品が多数存在するけれど、個人的には、そういうアイコン的な一枚絵の強度をもった作品よりも、形と色と記号とがそれぞれ独立しつつも、画面の中で緊張関係をもって成立しているようなレイアウト的な作品のほうが好きだ。サルトルがクレーを批判して、「造形記号と言語記号を混在させるのは画家としてやってはいけない」と言ったというものがあるそうだけれど、クレーの研究していた、多次元的な画面の中の力学を解明するには避けては通れなかった道だったと思う。