高田馬場の公園を散歩した。公園からの帰り道、「jazz・古本」と看板にかかれた喫茶店に入ってみた。店内のデカいスピーカーでジャズを鳴らしながら、気難しそうな店主が自家焙煎のコーヒーを煎れているという、いかにもな店だった。こういう店に入っておきながら、レモンスカッシュを頼んだので、コーヒーの味については分からないが、ジャズの音に関しては、あらためて一ノ関の「ベイシー」は凄かったんだなと思った。ジャズの事も、オーディオの事も殆ど知らないに等しいうえに、ジャズ喫茶自体、数える程しか行ったことがないので、比較が述べにくいのだが、ベイシーの音は、単純な音量差以上に、耳にバチバチくる刺激があって、店内に緊張感が満ちていた。

しかしながらこの店も、いい感じの痩せた老人がスピーカー前の特等席でキリッと姿勢を正しながら音を鑑賞していたり、なぜか店内のマンガを一人でひたすら読みまくっている学生がいたりと、映画のような、スローな美しい日常の光景を描き出していて、この街らしいような気がした。自分がこの街に住んでいた頃は全く知らなかった店だが、知っていても自分は行けなかっただろうなと思う。きっと自意識が邪魔をして、ナチュラルに店内に馴染めなかっただろう。何かにかぶれた感じを出してしまうことが、いつも怖かった。