海の家

真夜中1時か2時くらいになると、誰だか知らないがいつも笛を吹く者がいて、町のどこからか掠れた音が聞こえてくる。神社がわりと近くにあるのでその関係者だろうか。それとも全く別の何らかの理由で毎日笛を練習する者がいるのか、謎だ。自分は周りが多少うるさくても全く問題なく眠れるので、怪しい笛の音が聞こえても特に困ることもない…。

床屋

Scriptographerを使ってillustratorをスクリプト制御することを覚えた頃、マウスでillustrator上に線を引くと、その線が自動的にクダに変わる仕組みを作った。その自作ツールを使って描いたのが上記の絵(さらにエフェクトをかけているが…)。この頃すでに、ツールを自作することにとにかく強い憧れを抱くようになっていた。

ツールの自作に思いが至ったのは、ひとつには、自分の発想や表現は、いつもツールによって広げられてきたと思っているから…。小学校6年の時、家にパソコンが初めて来た時から、新しいツールとの出会いがいつも自分に新しい関心をもたらしてくれた。「キッドピクス」や「ぱたぱたアニメツクール」が無ければ絵に関心を示すことはなかっただろうし、「Klik&Play」が無ければゲーム制作に関心を示すこともなかっただろうし、「Rebirth」「Reason」が無ければ音楽制作をすることも無かったと思う。ツールを自分で作れたら、またひとつ新しい見方ができるようになるかもしれないと思った。

もうひとつには、自分は、ツールの助けを借りることで、何とか今まで、表現行為が楽しいものだと思って生きてこられたから。表現行為には必ず、どこかの段階で殆ど苦行とも思えるような「作業」を要する。例えば、建築学科の学生だった頃、図面を描く作業で、広大な面積の床に0.5ミリ感覚で何百本もの線を縦横に引くことで、床のタイルを描いていくという作業をやったが、はっきり言ってあれ程つまらない作業はなかった。これがCADソフトを使えば一瞬で終わり、表現行為へのモチベーションは、あの手の苦行によってかき消されずに済む。自分は、自身が、その手の苦行をものともしない強靱な創造的衝動を持ち合わせていないことを知っていた。だから今でもあらゆるツールに頼って、省略できる手間は省略するようにしている。

ちなみにこれは多くの人がそうなのだと思う。一部の非凡な人たちをのぞいて、多くの人たちの創造的衝動の芽はもろく、作業の面倒臭さという凶悪な力によって、すぐに潰されてしまう。しかし何万枚というタイルの目地を手描きさせるような真似をしなければ、潰されずに伸びていく創造力が確実にいくつもある。苦行を経ることで培われる創造力が大事だという事を説く人もいるだろうけれども、それをスキップする事で、表現行為の楽しさを持続させられる人を増やせるのであらば、僕は、そちらのほうが大事だと思う。

長くなったが、ツールの自作を学習することで、より苦行を減らし、創造する楽しさより面倒くささが上回ることがないようにしたいという思いがあった。上記の画像の例で言えば、こういうクダがたくさん泳ぐような絵を描きたいと思い立ったはいいが、illustratorのペンツールでチマチマ描くのは面倒で描く気がしないので、自動クダ描きツールを作って、マウス一振りですぐクダを生成できるようにした。これを作ったことで、クダの数を10倍に増やしてみよう、とか、クダの形をこんな風に変えてみよう、とかいった実験も容易に出来るようになった。チマチマ手作業を続けていては、こういう実験にまでモチベーションは続かなかったかもしれない。自分は、手間を減らすことは創造力の射程を広げると思っている。

信濃川

JPEG画像のブロックノイズってきれいだなと思う。

このJPEG特有の、8ドット×8ドットで構成されるブロックパターンに、グラフィカルな美しさがあるという見方を教えてくれる作品に、トーマス・ルフのJPEGシリーズがある。上の画像は、家の前で適当に撮った写真に、それ風の加工を加えたもの。

作家本人は確か、「デジタル画像が、単なる抽象的な正方形の色面の集積でしかないという構造を見せつつ、人のイメージの認知力を問う…」みたいな解説をつけていたように記憶しているけれども、個人的には、この人は高圧縮のJPEG画像の、この独特の肌理を格好良いと思ったのだと思う。アナログレコードのクラックノイズとか、オフセット印刷の網点パターンとかと同じで、技術に依存して発生してしまう独特の表情に惹かれたのだと思う。この手のノイズは、「味」として解釈できる。

上で、「それ風の加工」と書いたが、この画像自体は、単に圧縮率を限界近くまで上げたJPEG画像を拡大すればよいだけなので、ほぼ誰でも作れる。こういう風に、手法自体が作品化していて、なおかつその手法が、ほぼ誰にでも開かれている類の芸術には凄く惹かれる。オープンな技術や簡素な仕組みで様式レベルの美を作れるのはすばらしい…。

先日、GoogleがJPEGに代わる新画像圧縮技術WebPの仕様を公開したとかで話題になっていたが、このWebPはどのような肌理をもった技術なのか…WebPフォーマットのファイルを表示できるアプリケーションがまだ無いので分からないが、いずれGoogle Chromeが対応する時を待ちたい。

(MAD)sketchup



SketchUpで巨大なデータサイズの3Dモデルを扱っていたら、処理が追いつかず、次第にジオメトリが美しい感じに崩れていった。過大な負荷のため、パソコンのファンの音が苦しそうな感じになり、本体が異常な熱さになっている。いつもの、ソフトがフリーズする寸前の予兆をありありと感じた。データをセーブするのを忘れていたので、元のデータがよみがえらない事を悲しみながら、偶然が生成したこの図像のスクリーンショットを撮った。ほどなくしてパソコンはフリーズした。

単なるランダム生成された立体でなく、他の目的でキチンと作っていた3Dデータが壊れたので、建築部材以外の、イスとか植物とかも巻き込んでミキシングされていてちょっと面白い。デコンストラクションの建築家の人たちは、有形無形問わずいろいろなものをミキシングしてきた。建築部材、生活用品、行為、思想、歴史的コンテクスト…。その筆頭、COOP HIMMELB(L)AUは、去年のオペラシティの展示会で何かドクドク動く巨大な臓モツみたいなものを作っていたが、あれは何だったのか…自分にはよく分からなかった。(身体の拡張としての建築…と書いてあったが、それは他の誰かに任せて、もっとクラシック・デコンストラクションな、もっと無作為に色々混ぜた造形物を建てて欲しい。)

vase 2

花器の造形制作にはGoogle Sketchupを使った。SketchupはAPIが公開されていて、Rubyスクリプトを使って自由にプラグインを作成することができる。(Microsoft WordやExcelでマクロを作成できるのと同じようなこと)

今回は、8つの面で構成されている事+紙コップの体積を内包できること、という縛りのもと、ランダムに形状を生成するプログラムを作成した。Sketchup上で一度このプログラムを走らせると、100個の花器が生成される。プログラミング技術および数学的知識の未熟さのため、100個のうち2割程度は面がよじれたり裏返ったりしてしまって、CG上では存在しえても、リアル空間上ではありえない形状が生成されてしまうので、それらは手動でデータを削除している。

Sketchup上にカタログ的に現れる80個近くの色とりどりの花器のうち、好きなものを選んで、展開図に起こし、プリントアウトして組み立てる。好きな形状のものが見つからなければもう一度プログラムを走らせて、形状を刷新する。