Ditchling

先述したオーバーブッキングのトラブルにより、旅行計画がつぶれて台無しになり、やることがなくなってしまった。しかし、知り合いがイギリス南部のDitchlingという町で、活版印刷のポスターの展示をやっていると聞いていたので、思い立って行ってみた。

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Ditchlingは小さい町なのだが、ロンドン地下鉄の書体Johnston Undergroundを設計したEdward Johnstonと、その弟子でGill Sansなどを設計したことで知られるEric Gillが当時住んでおり、小さいながらも質の高い芸術家のコミュニティがあったらしい。それらの資料を保管したDitchling museum of Art + Craftという美術館があり、企画展として「Underground: 100 Years of Edward Johnston’s Lettering for London」というものをやっていたので、観た。Johnston Undergroundの手書きのスケッチなどが、数は多くないものの展示されており、見応えがあった。特にアルファベットのOや、数字の8などのスケッチで、円の中心に小さな穴が開いており、もろにコンパスを使用したと思われる形跡があった。Johnston Undergroundは、一般に幾何学的サンセリフと呼ばれるものだが、幾何学的といっても、例えば現代のAvenirなどの書体は、大文字Oも完全な正円でなく、視覚補正を施した微妙に歪んだ円を使用している。そちらのほうが正円より正円に見え、形状が落ち着くとされているが、その図形はコンパスで描くことはできない。幾何学的サンセリフの祖としてのJohnstonの書体に残されたコンパスの跡には、コンセプチュアルな清々しさを感じた。

残念なことに写真禁止だったので、写真はない。

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そのようにタイポグラファーと関わりが深い町なので、今回もイベントに合わせて街中でいくつかの書体関連の展示をやっていた。町の建物にT.Y.P.Eの4文字を描くというインスタレーションもきれいだった。

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知り合いの参加していた活版印刷ポスター展も、様々な技法で刷られたカラフルなポスター群が良かったのだが、知り合いのものはなぜか展示されていなかった。展覧会のカタログには載っているので、どこかにあるのだと思ったが、係の人に聞いたところ、売り切れてしまったのではとのことだった。

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アーティスト・イン・レジデンスとして、若い書体デザイナーが住み込みで制作をしている工房もあった。ポーランド出身の若い女性の制作プロセスが展示されていた。この町で見つけた昔の看板や、住所サインに使われているような文字を集めて、その造形要素をミックスさせながら、この町、固有の書体を作るという試みのようだった。町や都市が、それぞれ固有の書体を作成し、町の見た目を統一、個性を出していくという試みは、ヨーロッパでは時折見られる。日本でも都市フォントという構想があるが、もちろん日本語はアルファベットとは文字数が比較にならないほど違い、制作難易度が桁違いなので、日本ではまだそのような事例は少ないだろう。

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また、このイベントと同時にArt in Ditchlingという、この町の色々な作家による合同展示会もやっていた。合同展示といっても、一箇所で集まってやるのでなく、それぞれの工房を開放して、そこで展示を行うというもの。絵画や彫刻、家具、変わったところではギター職人などの展示もあった。モサモサとした森のような庭に、ほったて小屋のようなアトリエが建っている様などは、非常に雰囲気がよかった。

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