月別アーカイブ: 2015年9月

Stockholm 03

前2回分の記事もそうだが、このストックホルム中の日記は、写真を狂ったように貼る予定でいるので、これを見ている数少ない人の中でも、携帯電話で見ている人がいたら、重くて辛いかもしれない。

滞在中は食事として、シナモンパンを複数個、胃に入れた。市内のいたるところにセブンイレブンがあるので、そこのものをよく購入していた。どういうわけかシナモンパンがわりと好きなので、いくつか市内のパン屋にも適当に寄ってシナモンパンを購入したが、セブンのやつもパン屋と同等かそれ以上のクオリティがあった気がした。日本でもセブンイレブンのパンには信頼を置いていた。

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ストックホルム中央駅の駅前は、やや古めかしい近代建築がゴツゴツと大量に建っており、誰の設計によるものなのかは知らないが、重くて非常に良かった。どのビルもヨコに広く、縦長のペンシルビルのようなものはあまり無くて、箱のような無機質な表情があり、きれいだと思った。_DSC8106 _DSC2027 _DSC2036_DSC8109

ガムラ・スタンと呼ばれる保存街区には古い街並みが保存されている。王宮などもそこにある。前回、2月に来た時、ざっとこのあたりは見たので、今回は特に用はなく、素通りするだけに終わった。

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市内のホテルはどこも高額だったので、AirBnBを使用して、一般人の家に宿をとった。その人はほとんどセミプロのような感じで、自宅のうち3部屋を旅行者に毎日のように貸しており、殆どホテルにいるのと変わらなかった。

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Stockholm 02

図書館を出た後は、国立バクテリア研究所(State Bacteriological Labratory)に行った。研究所自体はとうの昔に閉鎖されており、行ったところで内部が見られるのかどうかは疑問だった。とりあえず行ってみたところ、この施設は研究所からオフィスビルを経て、今回新しく「Asplund」という名前のホテルやレストランに生まれ変わるらしく、その内装工事を行っていた。

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中にいた人に呼びかけたら、内部に入れてくれ、工事中の各部屋を見せてくれた。基本的にはなるべくアスプルンドのオリジナルの意匠を残すようにしており、現代的なインテリアと合わせたデザインホテルのようなものを目指すという。壁などもオリジナルの色ですべて新しく塗り直されていた。往々にして、このような歴史的建造物は、たとえ原型と同じ色だったとしても、塗り直したり洗ったりすると、味や凄みが失われることが多いが、これに関しても例外ではないように思われた。

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ただロビーの巨大な吹き抜け空間は、とても良かった。天井付近をぐるりと一周する水平窓から光がソフトに差し込み、角がほどよく落とされた機械室や螺旋階段に回り込むようにあたっていた。先の図書館もそうだったが、全体が明るいのに、同時に全体がほどよく薄暗い感じもするところが、何か自分の琴線を持っていく感じがした。

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ここはデザインホテルになるらしいが、詩的な観点からは、バクテリア研究所時代のほうが情緒があっただろうと思う。デザインホテルがきれいに出来ていても、あまり面白くないが、理性的な研究所で、顕微鏡の世界に没頭する研究員たちの空間が異様に美しいというほうが立体的だと思う。

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研究所の最寄駅は月面基地のようなSF感があった。誰の手によるものかは知らない。

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その後、街の中心部に戻り、スカンディア・シネマ(Skandia Cinema)に行った。たいして下調べもせずに来てしまったので、今日も明日も休館日だった。ここは外観だけ見ても完全に意味のない建物なのだが、どうしようもなかった。

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Stockholm 01

遅めの夏休みを取得していた。休み自体は、前から予定していたものの、何か予定があったわけではなく、昨日まで何をするか、全く決めていなかった。同僚など、会う人会う人、明日から休むと言うと、どこに行くのかと必ず聞かれ、何の予約も取ってないと言うと、それは有り得ない何のための休みなんだと返された。
家で1ヶ月引き篭もっても、まだ全然足りないほど、家でやりたいこともあるのだが、同時に、休み明けに何してたのと聞かれ、ずっと家にいたと答える精神力が自分には無いことも分かっていた。休み中ずっと家にいるのは悪いことでないが、基本的に社会はそれを許容しないだろうし、それはそういうものとして特に思うところはない。
地図を凝視しながらもろもろ考えた結果、アスプルンドの建物を見にスウェーデンに行く事にした。ストックホルムは今年2月にも行ったが、その時は業務だったのでアスプルンドを全く見ずに帰ってきてしまい、そのことを残念に感じていたことを思い出した。

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ストックホルムに到着すると、すぐストックホルム市立図書館(Stockholms Stadsbibliotek)に行った。有名な円筒形のメイン書架室に至る前、エントランス部分に、黒く塗り込められた高い壁に囲まれた前室がある事を知らなかった。黒い壁に光が淡く漏れ照らされて、その上から物体の影が重ねられて、陰影の中の陰影がやたらとメランコリックに感じられた。もろに悲しくなる作用があり、視線を先にやると細い通路を上昇していく階段があって、そこを抜けると一気にふわっと明るい全方位の巨大書架空間が広がる。大仰なくらいの場面展開なのだけど、光がそうとうにきれいなので、斜に構える隙すらなく、圧倒されるものがあった。

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メイン室を取り囲むように、側室にも書架と閲覧コーナーがあった。入った瞬間、何となく「知ってる」空間の感じがした。かつて通っていた、大学の理工学図書館の雰囲気がしたような気がした。設計者の安東勝男が北欧に影響されていたのかどうかは知らないが、そもそも大隈講堂はエストベリ設計のストックホルム市庁舎に影響を受けているとされるし、確か日本で最初にアスプルンドを紹介したのも同大学の今井兼次なので、そこからの系譜で、同大学には常に北欧趣味があったとは、学生の時分に教授から聞かされていた。だから、なんとなく先入観からそう思っただけかもしれない。

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天井付近に回された窓、二階から覗く閲覧机のレイアウト、工業的な鉄パイプと木製の家具など、要素として似ているところがないわけではないが、よくよく考えてみると全体的な明るさの質は全く違う気もした。それでも、上方から斜めにサッと差す光線の具合がやはり何か懐かしい感じがした。理工学図書館の、あの半地下で暗く、閉鎖的な環境、鉄パイプや合板、安っぽい床タイルなどの工業的で無味乾燥な素材、それでいてプロポーションが妙にきれいなインテリアがあり、サッシ窓から差す光が室内のホコリをチリチリと瞬かせている感じに似ていた。本を読む人の孤独っぽい感じが保証されているようで良い雰囲気だと思った。

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この階段なども素っ気ない金属板で、即物的な感じがして心惹かれた。いわゆる名のあるモダニズムの設計者たちは、こういう冷たい素材を使いつつも、それでも空間的に美しい光と影を作ろうとする相反する要素が拮抗していて非常に良い。

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終わり

_DSC1824そういえば先週はスーパームーンという月が巨大に見える日があったと聞く。どれくらい大きく見えたのかは知らないが、今日の帰り道、月が明るかったので、そのことを思い出した。何十年かに一度の現象だったというが、科学的にどのように月が大きく見えるのかは、調べていないので、知らない。

London Design Week

今週はLondon design weekと称する、ロンドン各所の家具屋や美術館、セレクトショップ等が協同してもろもろのデザインイベントを開催している週だったので、土日とそれらを一日中見て回っていた。多くの美しいものがあったが、いつものように、そのどれも自分とは一切関係ないもののように思えた。彫刻のように眺めていればどれもそれなりに面白いが、商品として認識し始めると、急激に自分とは関係ない世界のものに思える。普段から、雑貨屋などでも、日常に彩りが出そうな豊かな商品を見ると、これは自分とは関係のないものだと思う。意図的にそう思うようにマインドコントロールをしてきたので、ある程度の達成感がある。いつかこのマインドセットを解除する必要があれば、そうすればよい。

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ラ・ヴィレット公園

しばらく日記から遠ざかっていた。平日は就労していて、週末はもろもろ作業などしており特段記述するようなことも無かったために、気がつくと多くの日数が経ってしまっていた。

今週は1日だけだが、パリに行く機会があり、用事を済ませた後に少し時間ができたためにいくつかの建物を見て回った。

ルイヴィトン財団美術館は、二度ほどその外観だけを見ていたが、今回はついに中に入ることができた。外観からでは想像できないが、大小、大きさや形のバリエーション豊かなボックスが内部に詰まっており、その空間に合わせた作品がほどよいバランスで置かれていて、とても良かった。縦方向にボリュームが伸び縮みする感じがダイナミックで好きだった。_DSC1332 _DSC1343 _DSC1370 _DSC1376

更に足を伸ばし、ラ・ヴィレット公園に行った。バーナード・チュミの設計による「フォーリー」という謎の赤い小パビリオンが公園じゅうにグリッドに沿って点在している。1982年に行われたこの公園の設計コンペは当時の建築界で相当な話題になったらしいが、自分はそのずっと後に学生となって、そのコンペを本で見たのみなので、実際のところは分からない。ただその本で見たチュミのコンペ案に描かれていたアクソメ図がやたらと格好よかったことを非常によく覚えており、実際にどのようなものが建っているのか見てみたかった。

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結果的には図面のほうが圧倒的に美しく、もともと観念的な内容だったこともあってか、実空間としては明らかに失敗している感が強く出ていた。フォーリーというのは、庭園などに装飾用として建てられる意味のない小屋のような建物のことを言うらしく、この案に関しても、公園という概念的な場所をテーマにどのように哲学できるかというような内容で、そもそも空間的に豊かなものを作ろうという気は無かったのだろうから、それはあえて言うべきことでもないのかもしれない。

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基本的に、80年代のデコン的な作風の建物は構造を露出するのが好きで、公園内のイスとか、ブリッジの柵のようなところとかもザクザクと骨をむき出しにしており、個人的にこういうのは好きなので、やっぱりいいなあなどと思っていた。普通の感覚だと、こういう裏方の構成材みたいなのは、もう一枚パネルを貼ったり、そもそも見えにくいようにスタイリングしたりしてあまり露出させないが、この時代はそういうデザイン処理が逆に格好良くないという雰囲気だったのだろう。

公園内には他にも有名な建物としてポルザンパルクの「音楽都市」やジャン・ヌーヴェルの「パリフィルハーモニー」があった。このふたつの建物は隣り合って建っており、プリツカー賞受賞者の設計した建物が並んでいることになる。
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フィルハーモニーのほうは最近竣工したばかりなのだが、前に、建物の建設費がかさみまくって工事が大幅に遅れ、完成していないにもかかわらず市が竣工式を行って、設計者のヌーヴェルが激怒、式典をボイコットみたいなニュースを見ていたので、どういう感じなのかなとは思っていた。外観はぱっと見、出来ていたが裏側に回ると確かにいまだに工事中の箇所が多く、これでよく稼働させているなとは思った…。

チュミのあの赤いフォーリー群は、見てみて割とがっかりするようなものだったが、それでも、通常、憩いとか触れ合いとかそういう優しげなテーマで作られる公園にたいして、思い切りコンセプチュアルで冷たい、一見して何か怖い感じがする幾何学形態をねじ込まないと気が済まない人間がいたとこいうことは面白いと思った。この設計に関してチュミは一冊、本を書いているので読んでみたいとも思った。