Stockholm 01

遅めの夏休みを取得していた。休み自体は、前から予定していたものの、何か予定があったわけではなく、昨日まで何をするか、全く決めていなかった。同僚など、会う人会う人、明日から休むと言うと、どこに行くのかと必ず聞かれ、何の予約も取ってないと言うと、それは有り得ない何のための休みなんだと返された。
家で1ヶ月引き篭もっても、まだ全然足りないほど、家でやりたいこともあるのだが、同時に、休み明けに何してたのと聞かれ、ずっと家にいたと答える精神力が自分には無いことも分かっていた。休み中ずっと家にいるのは悪いことでないが、基本的に社会はそれを許容しないだろうし、それはそういうものとして特に思うところはない。
地図を凝視しながらもろもろ考えた結果、アスプルンドの建物を見にスウェーデンに行く事にした。ストックホルムは今年2月にも行ったが、その時は業務だったのでアスプルンドを全く見ずに帰ってきてしまい、そのことを残念に感じていたことを思い出した。

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ストックホルムに到着すると、すぐストックホルム市立図書館(Stockholms Stadsbibliotek)に行った。有名な円筒形のメイン書架室に至る前、エントランス部分に、黒く塗り込められた高い壁に囲まれた前室がある事を知らなかった。黒い壁に光が淡く漏れ照らされて、その上から物体の影が重ねられて、陰影の中の陰影がやたらとメランコリックに感じられた。もろに悲しくなる作用があり、視線を先にやると細い通路を上昇していく階段があって、そこを抜けると一気にふわっと明るい全方位の巨大書架空間が広がる。大仰なくらいの場面展開なのだけど、光がそうとうにきれいなので、斜に構える隙すらなく、圧倒されるものがあった。

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メイン室を取り囲むように、側室にも書架と閲覧コーナーがあった。入った瞬間、何となく「知ってる」空間の感じがした。かつて通っていた、大学の理工学図書館の雰囲気がしたような気がした。設計者の安東勝男が北欧に影響されていたのかどうかは知らないが、そもそも大隈講堂はエストベリ設計のストックホルム市庁舎に影響を受けているとされるし、確か日本で最初にアスプルンドを紹介したのも同大学の今井兼次なので、そこからの系譜で、同大学には常に北欧趣味があったとは、学生の時分に教授から聞かされていた。だから、なんとなく先入観からそう思っただけかもしれない。

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天井付近に回された窓、二階から覗く閲覧机のレイアウト、工業的な鉄パイプと木製の家具など、要素として似ているところがないわけではないが、よくよく考えてみると全体的な明るさの質は全く違う気もした。それでも、上方から斜めにサッと差す光線の具合がやはり何か懐かしい感じがした。理工学図書館の、あの半地下で暗く、閉鎖的な環境、鉄パイプや合板、安っぽい床タイルなどの工業的で無味乾燥な素材、それでいてプロポーションが妙にきれいなインテリアがあり、サッシ窓から差す光が室内のホコリをチリチリと瞬かせている感じに似ていた。本を読む人の孤独っぽい感じが保証されているようで良い雰囲気だと思った。

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この階段なども素っ気ない金属板で、即物的な感じがして心惹かれた。いわゆる名のあるモダニズムの設計者たちは、こういう冷たい素材を使いつつも、それでも空間的に美しい光と影を作ろうとする相反する要素が拮抗していて非常に良い。

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