GONE HOME

少し前に、GONE HOMEというゲームをプレイした。このゲームもいわゆるウォーキングシミュレータで、パズルや戦闘といったゲーム的要素は一切、無く、ただ空間の中を探索しながら、少しづつ紐解かれていくストーリーを楽しんでいくという、映画に近いもの。

ここから先はストーリーの根幹について書いてあるので、このゲームをこれからやってみようという人がもし仮に居れば、ここで読むのを止めたほうが良が、多分9割9分いないと思うので続けて書く。

舞台は1995年、アメリカ・オレゴン州で、1年間のヨーロッパ放浪から帰国したケイティという主人公が、家に帰ったところ、なぜか家は真っ暗で静まりかえっており、自分を迎え入れてくれるはずの父、母、妹のサムの姿がなかったというところから話が始まる。広い屋敷の中を歩き回りながら、何が起こったのかを調べていく。
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かなり最後のほうにならないと分からないのだが、父と母については、単に旅行に行っていて不在にしているだけという恐ろしく拍子抜けする設定になっている。物語のメインは妹のサムにまつわるもろもろで、屋敷の中をもろもろ探索していくと、サムの学校での成績について書かれたメモや、好きなバンドの出ている雑誌、落書き、デリバリーピザの空箱、昔のアルバム、旅行の思い出の切符の半券など、細かなアイテムがたくさん見つかる。

このゲームには、直接、ゲームのストーリーや進行に関係ないグッズが大量に散りばめられており、それらを細かく見ていくと、ゲーム中に人物キャラクターは一切出てこないにも関わらず、徐々にこの家族の溝がリアリティをおびて浮かび上がってくるようになっている。

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例えば玄関の本棚には、いくつかのトロフィーや賞状が置いてあるが、それらは全てケイティのもので、サムのものはない。優等生だった姉のケイティに対して、妹のサムはどうやらあまり成績が良くなかったようで、劣等感を抱えていたような状況が読み取れる。サムの部屋も、見てみると、勉強机には親から買い与えられたとおぼしき文学全集が手付かずで鎮座しており、その周りにはパンクバンド雑誌や、テレビゲーム機などが乱雑に置かれており、わかりやすい思春期の反抗が現れている。

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家の中には、いくつかのカセットテープが落ちており、マジックで殴り書いた手書きの曲目リストには、過激な曲名が並んでいる。それを再生すると、ガレージで録音されたような、荒い音質の、女性ボーカルのパンクバンドの曲が流れる。

サムのメモや、随所に残された交換日記の断片などを拾い集めていくと、サムが学校で軽いいじめに遭い、のけ者にされていたこと、そこでロニーというちょっとパンクな少女が声をかけてくれたこと、のけ者の二人はしだいに惹かれあっていったこと、二人で写真を取り合ったこと、ロニーがはじめたバンドを見に行ったこと、サムが書いていた小説を見せて褒めてもらったこと、などが徐々に分かってくる。

ロニーは進学の予定はなく、自らの意思で、女性にもかかわらず軍隊に志願しており、街を出る日が決まると、残された時間の中で、サムとロニーという二人の少女はさらに親密になり、やがてそれが単なる友人関係でなく、愛だったと気付く。二人はそれをお互いに分かりつつも、それぞれの進路のためにお互いを送り出そうとする。

物語の終盤で、家の納戸のような所に隠された屋根裏部屋への鍵を発見する。屋根裏部屋はサムが自分の秘密の部屋として使用していた部屋で、そこに入ると、サムがケイティに当てた手紙を発見する。そこには、ロニーが入隊するためのバスに乗ったが、途中でバスを降りてしまったこと、感情を抑えきれずにサムに電話をくれたこと、そしてサムがそれに応えるように、家を出てロニーと暮らすことを決意したことが書かれている。

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つまりサムとロニーは駈け落ちをしてしまい、その結果、この家に誰も居なかったということがわかってエンディングとなる。旅行に行っている両親についても、母親の方が不倫しているっぽい手紙があったり、作家である父親の浮き沈みがわかる編集者とのやりとりなど、もろもろ細かい設定があるのだが、それらもサイドストーリー的に楽しめる。

メインテーマは、このようにライオットガール的な10代の少女の青春が軸になっているのだが、そのストーリーもさることながら、とにかく家の中のあらゆるアイテムの作り込みが緻密で、歯磨き粉や洗剤のパッケージとか、家の中のポスターや、冷蔵庫の中身、雑な納戸の造作など、90年代のアメリカの家庭の雰囲気がリアリティを持って体験できて非常に興味深い作品だった。

ストーリーそのものはこうして文字に起こすと、さして珍しくもないような気もするが、その語り口、このようにゲームに仕立てて、家の中に置かれたものだけで巧妙に物語化できているのは素晴らしいものがあった。同じストーリーが与えられても、映画という語り方だったらこの印象は出せなかっただろうと思う。自分で探索するゲームで、自分で断片を繋いでいくタイプの体験だからこその感情移入があって面白かった。

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こういう非常に青い雰囲気のただよう、少女的な痛さの滲むイラストレーションも的確。

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