カウンターパンチ

午前中の便で羽田空港を出て、イギリスに戻ってきた。機内で何冊かの本を読んだ。

「カウンターパンチ(フレット・スメイヤーズ著 大曲都市訳)」は非常に面白く、16世紀の金属活字の彫り師が使っていた、今日ではほとんど知られていない、ある道具の存在から、現代にまで通じる書体デザインの基本となる骨格がどのように構成されていったのかを解き明かしていく内容だった。

金属活字を彫る際に、彫刻師たちはアルファベットのo,b,d,n,qなどの中心の空間のサイズを同じにするために、バラツキの出やすい手彫りでなく、カウンターパンチと呼ばれる判子のような道具を使っていた。それは作業効率を大幅に向上させる合理的なものであると同時に、それによって生み出される、統一感ある形状と白と黒のリズムが、書体の読みやすさ、美しさに多大な影響を与えていった。このカウンターパンチは、要は同じサイズの穴を穿つというだけの地味な道具で、かつ、その道具の存在は最終的に印字された活字からは想像する事がとても難しいので、ほとんど存在が知られておらず、重要視もされていなかったが、実はそれこそが書体の基本リズムと骨格を形作っていたということだった。コンセプチュアルな説明でなく、あくまで目に見える即物的な事象から造形の思想と理由を的確に説明していって、鮮やかだった。今までに読んだ書体関連の本の中で最も面白かった。

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