花見 外科室

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昼頃から会社の同僚の方に誘われて、花見に出かける。穴場的な公園で、非常に良い雰囲気に桜が咲いているにもかかわらず、人がほどよくまばらに居る感じで、良いロケーションだった。ただ気温は真冬のように寒く、少し早まって薄着で出かけてしまった自分は途中から震えが止まらなかった。初対面の人が多かったが、和気藹々とした雰囲気で楽しかった。

その後、夕方に語学学校の説明を受けに、最寄り駅そばの語学学校へ行ってみた。丁寧なスタッフの人にもろもろ解説を受ける。明日、体験レッスン的なものを受けられるというのでまた伺うことになった。

帰宅後、泉鏡花の短編「外科室」を読んだ。青空文庫なので無料だ。これが短編ながらも難解なストーリーだった。

ある外科医と、その外科医の手術を受けようとしている高貴な身分の伯爵夫人の話なのだが、夫人は「麻酔をかけられるとうわごとが出るというから、心の中にひとつだけある秘密が漏れてしまうのが怖い」という理由で麻酔を拒否する。周囲の説得を聞かず、かたくなに麻酔を拒否する夫人に、外科医の高峯は麻酔無しの外科手術を始める。胸を切り開いて、迅速に施術を進めているさなか、夫人が高峯の手をつかむ。「痛みますか」「いいえ、あなただから、あなただから」「でも、あなたは、あなたは、私を知りますまい!」「忘れません」このたった4回の会話のやりとりの後、夫人は高峯の手に持ったメスで心臓を掻っ切って自殺する。そのすぐ後で、高峯も後を追って自殺する。

後半のページには、ふたりが9年前に一度だけ、小石川の植物園ですれ違っていたという記述がなされている。だけどそこでは二人は何か会話を交わしているわけでもなく、お互いに目があったといった描写すらない。高峯のほうは夫人にひとめぼれしたような感じで描かれているが、夫人のほうは高峯に気付いていたかどうかすら定かではない。

物語はそれで終了で、つまり、9年前に一度だけ植物園ですれ違った男女が、やがて外科医と患者となり、夫人はなぜか麻酔を拒否し、外科医もそれに応じ、手術中に、実はお互いを意識していたことを数回の会話で確認し、直後、夫人は自殺し、外科医も後を追って自殺するという、話し。

凄まじくミニマルな物語で、9年前の一瞬だけの出会いの中だけで育まれた恋愛感情を壊さないよう、そのロマンのなかで殉死するというのがあまりにもピュアすぎて、狂気を感じる…。少なくとも常人の精神構造ではあまりにもあり得ない物語に、置いてきぼりにされた感を受けるが、だからこそなのか、独特の、何か、美しいものを見た…のだろうか…という恍惚感がある。

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