マティス 堀辰雄

from Tate Modern website

Tate modernにマティス展を見に行った。主として切り絵の作品が展示されており、ベットの上でなかば寝たきりになったマティスが、カラフルな紙からワカメの様な形状をハサミで切り出し、マティスの指示のもと、アシスタントがそれを壁に張り付けて作品を生み出している様子を映したビデオが面白かった。作り方がかなり即興的で、アシスタントに切り絵を張り付ける場所を右だ左だといろいろ試させながら、ピンと来る場所を探っていた。使う色も、すでに自身の気に入った色だけを集めたカラーパレットを作成していて、それをもとにアシスタントが紙に着彩していたようだ。画家がこのように制作過程をシステム化して、スタジオ制で芸術制作するのはいつ頃から始まっていたのか、知らないが、マティスもそういうやり方をしていたとは知らなかった。

_DSC3937帰宅後、先日、見たジブリ映画の原作のひとつである堀辰雄の「風立ちぬ」を読んだ。数年前に、活字サンプルとして偶然、神保町で購入していたもので、全く読まずに本棚の中で忘れていた。本はオリジナルの野田書房の初版本でなく、昭和後期に当時の造本を完全に再現して復刻された「新選 名著複刻全集近代文学館」の一部にあたるもの。詳しくはあまり知らないが、当時、タイポグラフィをある私塾で習っていた頃、そこの主が、このシリーズは古本屋に安く売っているし、造本・組版の復刻の完成度が高いので良いと勧められて買ったもののように記憶している。

内容は、わりと記録的な文体で、自然の描写がとても緻密に書かれていて、登場人物はあまり喋らないのに、サナトリウムの中での凝縮された時間がわかった。物語は全体的にかなりゆっくり、慈しむような時間が流れているにも関わらず、読後には、それらがすべて一瞬のうちに過ぎたように感じられるところが、現実の時間の流れと同じような冷酷さがあって、良かった。

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