先日、地図を眺めていたところ、イギリス南部のPortsmouth港からフランス北部のOuistreham港へと渡るフェリーが出ている事に気付き、それを利用してNormandeeの海岸線にあるトーチカを見に行けるのではと思いついたので、突発的に行ってみる事にした…。
当初、車ごとカーフェリーに乗り込んでフランスに上陸しようとしたが、車のフェリー代が片道£180近くするのに対し、人のフェリー代は£30程度で、あまりに差があったため、やめた。代わりに折り畳み自転車を車に積み、車はポーツマスに置いて人+自転車で乗り込む事にした。
Portsmouth港を夜22:45に出発し、翌朝の6:45にOuistreham着くという便に乗った。自転車は車と同様の扱いで、フェリーに乗り込む車の列に混じって出国審査などを済ませた。飛行機と違って、出国審査は荷物検査すら無い非常に簡素なものだった。
おそらく、多くの車の中で、非力な自転車がウロチョロしていると邪魔で危ないからだろうが、自転車は車より優先的にフェリーに乗る事ができた。チャリ、車、人、の順番で乗船するようだ。自転車の人は他に3、4人いたが、皆、しっかりとした自転車ウェアと本格的なツーリング仕様の自転車で、自分は近所に買い物に行くレベルの折り畳み自転車と普段着だったため、完全に浮いていた。
手前の黒い折り畳み自転車が自分のもの。2、3ヶ月前に、近所の自転車屋で50%オフセールみたいなのをやっていたので買った。
部屋は、他が空いていなかったため、一人にも関わらず、4人部屋を取らざるを得なかった。写真では2人分のベッドが見えるが、もう2人分は壁に畳んで設置されている。部屋はかなりコンパクトだが、シャワーやトイレもあり、一晩過ごすには全く申し分無いつくりになっている。
個室を取らずとも、一番安いリクライニングシート席というのもあったが、一応、ちゃんと眠りたかったため、個室にした。
このような巨大客船に乗るのは、高校生の修学旅行で神戸から長崎に行って以来だと思うので、ただ船で一泊するというだけなのに、意味なく気分が高揚してきてしまって、まだ自分にそういう素養が残されていたことに安心感を覚えた。
船内も一通り探検した。この8階建ての豪華客船は、インテリアがやけに派手で、妙な色のネオンや、やたらピカピカしたメッキ仕上げの手すりや什器、手描き風のサインなど、オールド・アメリカンな雰囲気があった。ただ狙ってやったレトロ感ではないことは自明だったので、全体的に古さは隠しきれず、それらのきらびやかなデコレーションが、あまりにも寂れた空気を強調しているように思えた。しかしその時の自分にとっては、そういう取り残されたような違和感が、非日常感を心地よくあおりまくってくるように感じられて、なぜかどんどん楽しくなってきていた。
この書体を選択し、それをイルミネーション化するあたりが、現代では失われてしまったセンスという感じがする。
このような唐突に設置された派手なエアホッケー台、余り部屋の活用に困ったので設置されたかのようなスロット台など、悲しいアイテム群が、気分を高揚させる良い燃料となった。
船には学生の集団らしき人々が多数乗り込んでおり、最上階のバー付近のしょぼいダンスコーナーで、もはやいつの時代の曲かも分からないくらいの無個性的なディスコ調の曲に合わせてワラワラと踊っていた。その寂しくも魅力的な風景を見て、まだフランスに着いてさえいないにも関わらず、既にこの旅に満足したような気分になった。
食堂でラムのシチューを食べて、部屋に戻り眠りについた。